青森県で500年の歴史を誇る大地主・天外一族。村では絶大な富と権力を誇っていたが、終戦後の農地改正法により、その勢いは静かに衰えつつあった。
太平洋戦争から復員した仁朗が帰ると、家には奇子という妹が生まれていた。それは父・作右衛門と兄嫁・すえの間に生まれた私生児だった。兄の市郎が、遺産ほしさに妻であるすえを差し出したというのだ。
「うちは異常な家だ!
狂ってるんだ!」
そんな仁朗も、しかし、GHQのスパイとして仲間を売って生き延びて来た。組織の命令により、さらなる陰謀に加担して行く仁朗。仁朗の犯した罪、一族の犯した罪=奇子が複雑に絡み合い、やがて奇子は土蔵の地下に閉じ込められ、死んだことにされる。
それから十一年後、末弟・伺朗は強く反発している。
「うちの家系はまるで汚物溜だ。
犬か猫みてぇに混ざり合って、
そのつど、金と権力でもみ消したんだ…」
さらに十一年後、地下で育てられ続けてきた奇子は、伺朗により地上へと出される。
隠蔽した罪や過去が、次々に暴かれ、やがて一族を滅ぼすことになる。
地方旧家の愛欲、戦後歴史の闇を描く因果の物語。
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天外家の次男
天外仁朗
[ 五関晃一(A.B.C-Z)]
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天外家の三男
天外伺朗
[ 三津谷亮 ]
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刑事
下田波奈夫
[ 味方良介 ]
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作右衛門とすえの子
奇子
[ 駒井蓮 ]
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市朗の妻
天外すえ
[ 深谷由梨香 ]
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天外家の長女
天外志子
[ 松本妃代 ]
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天外家に仕える女中
お涼
[ 相原雪月花 ]
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親戚の医師
山崎
[ 中村まこと ]
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天外家の長男
天外市朗
[ 梶原善 ]
【上演台本・演出】
中屋敷 法仁 コメント
『奇子』…逃れられない血の「絆」
「絆」は尊いものである。「絆」を大切にすべきである。
誰しもが当たり前のように「絆」の必要性を説く。
人間関係の希薄化が騒がれる現代では、それも当然なのだろう。
人々は、もはや幻想と化した、誰かとの濃密な「絆」を求めている。
しかし、決して忘れてはならない。
そもそも人との「絆」とは、互いの自由を冒す、危険なものではなかったか。
逃れることの出来ない、恐ろしい呪縛ではなかったか。
そして、その忌々しい「絆」は、目にははっきりと見えないだけで、
現代にも空気のように漂い、我々を静かに縛り続けている。
手塚治虫「奇子」は、そんな絆のおぞましさが痛々しいまでに描かれている。
青森の名家・天外一族が犯してきた罪が、奇子という命として誕生する。
そこで初めて、劇中人物たちは気がつく。
互いを侮り、軽蔑しているが、結局は皆、
血族という「絆」で縛られた同じ穴のむじなであるということに。
そして、その「絆」は鎖のように心身に深く食い込み、
自分たちを土地と時代に縛り付けているということに。
東京オリンピック開幕も近い。
日本人であること、日本人同士で繋がり合う素晴らしさが、さらに叫ばれていくだろう。
安易な「絆」を求める時代に、手塚治虫が昭和に生み出した、愛おしくもおぞましい「絆」の物語を
生身の俳優たちの身体で蘇らせたい。
我々が、心の奥底の座敷牢に閉じ込めてしまった数々の罪科を
血の「絆」をたぐり寄せ、この地上に引きずり出したいのだ。
【上演台本・演出】中屋敷法仁 プロフィール
劇作家・演出家。1984年生まれ、青森県出身。高校在学中に発表した『贋作マクベス』にて、第49回全国高等学校演劇大会・最優秀創作脚本賞を受賞。青山学院大学在学中に「柿喰う客」を旗揚げ、06年に劇団化。旗揚げ以降、全ての作品の作・演出を手掛ける。劇団公演では本公演の他に“こどもと観る演劇プロジェクト”や女優のみによるシェイクスピアの上演企画“女体シェイクスピア”なども手掛ける一方、近年では、外部プロデュース作品も多数演出。劇団公演以外の主な作品にパルコ・プロデュース『サクラパパオー』『露出狂』、『黒子のバスケ』、『文豪ストレイドッグス』、『赤鬼』など。
※手塚治虫の「塚」と手塚プロダクションの「塚」は旧字体ですが、環境によっては表示できない可能性があるため、このページでは「塚」(新字体)としています。