PARCO PRODUCE

 ブエノスアイレス午前零時

原作 藤沢周、脚本 蓬莱竜太、音楽 coba、演出 行定勲、出演 森田剛 滝本美織 他。東京 11/28(金)-12/21(日) 新国立劇場・中劇場、大阪 12/25(木)-29(月) シアターBRAVA!

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挫折した青年と盲目の老嬢、孤独な2人の運命的な出会い。瞳の奥に宿る思い出は現実か、それとも幻想か。世代と世界を超えた究極のラブストーリー。

2014年ふうゆ、ついに舞台化決定

第119回(1998年)「芥川賞」受賞作、あらゆる世代の支持を受け続ける藤沢周のベストセラー小説がついに舞台化!行定勲が長年温めていた舞台化プランが蓬萊竜太の脚本によりこの冬ついに実現!主演カザマ役には、数々の名演出家と共演してきた「森田 剛」が初の1人2役に挑戦いたします。ミツコ役には、今回が初舞台となる「瀧本美織」、マリア役には、絶対的な存在感で第一線でかつやくしている「原田美枝子」が決定しました!森田剛演じる都会からドロップアウトし、山奥のホテルで働く青年「カザマ」。その「カザマ」が働く温泉ホテルに社交ダンスツアーの客として来た老嬢マリア(原田美枝子)。彼女が語る、アルゼンチンのブエノスアイレスでの娼婦“ミツコ”(瀧本美織)としての過去。孤独な青年と盲目の老嬢、孤独な2人の運命的な出会い…。老嬢の瞳の奥に宿る思い出は、現実かはたまた幻想か。男の中で、忘れかけた希望とパッションが、走馬灯のように甦る。雪国の温泉街のホテルと、ブエノスアイレスの酒場が交錯する。老嬢マリアの語りで紡がれいく二つの世界。二人がタンゴを踊る時、真夏のブエノスアイレスに切なく美しい雪が降る…

STORY

故郷にUターンし、ダンスホールを擁するホテルで働くカザマ(森田剛)は、ある日、ホテルで受け入れた社交ダンスツアーの客である一人の老嬢と出会う。盲目の上、他の客からも疎まれる老嬢だが、カザマは何故か目が離せない。彼女が口走るとりとめのない身の上話や、アルゼンチンの物語に嘘か本当かわらないまま、次第に引き込まれていく── 。

CAST&STAFF

COMMENT

行定勲

演出・行定勲 コメント

常に私の頭の中にあったこの作品を舞台化できて今から興奮しています。雪深い温泉宿にあるダンスホールとブエノスアイレスの風景のコントラストが私を魅了しました。若い男と老女との孤独な魂の邂逅が奇跡を起こすという、デカダンスを舞台で創り上げたいと思っています。主人公のカザマは以前からご一緒してみたかった森田剛さんが引き受けてもらえると聞いて喜んでいます。社会からドロップアウトした等身大の男をどんな佇まいで演じるのか、そして、素晴らしい身体能力を持つ彼が情熱的なタンゴをどんな風に踊るのか今から楽しみでなりません。

森田 剛

主演・森田 剛(カザマ役)コメント

行定さんとは、以前からお仕事をご一緒したかったそうですね。
自分が出演している舞台のときにいらっしゃったときに、ご挨拶させていただいたことがあったんです。そのときに、行定さんも舞台の演出をされるというお話をうかがって、舞台の演出もされているということが、印象に残っていて。行定さんご本人に興味がありましたし、僕のほうから行定さんとお仕事がしたいとお伝えしたんです。そうしたら、そこからとんとん拍子というか、すぐに行定さんから「こういう話はどうかな?」とお話をいただいて、「え! もう?」みたいな感じになりました(笑)。
行定さんは森田さんのために、この作品を?
そういう部分はあるみたいです。とにかく動き出すのが早かった。作品自体については、具体的に決まっている部分は少ないんですけど、行定さんが前回の舞台も観に来てくださって、そのときに「こういう話なんだよ」という概略を教えていただきましたね。
行定さんに興味を持つきっかけは、なんでしたか?
まず青山の家具屋でお見受けしたのが最初で。「あ! 映画監督だ!」と思いました(笑)。それで初めてお見受けしたんですけど、そのときからちょっとずつ気になっていって。もちろん、行定さんの作品は観たりはしてたんですけど…、最終的には直感ですね。お会いして、お話ししたときの感じで、ご一緒させていただきたいなと。
原作と、これまで行定さんが撮ってこられた叙情的な映画には相通ずるものを感じますね。
楽しみですよね。今までに行定さんとお仕事をした俳優さんや、女優さんにも話を聞いて、どういう方なのかはちょっと聞いたりして。演出するときの距離が近い、ということは、みんな言ってました(笑)。そういうところも面白いなって思いましたね。そういう独特な演出の仕方や、ものの見方をする人なのかなと思うし、すごく楽しみです。
現段階で作品に対して、想像をめぐらせていることなどはありますか?
もう人生が終わったみたいなやつが、おばあさんと会って気持ちが通じ合っていく。そして枯れた感じだったのが、生き返っていくという感じはすごく楽しみですね。しかも、そこにアルゼンチンタンゴがからんでくるわけで。おばあさんの幻想の中の恋人、ニコラスについては、まだちょっとわからないですけど、どういう二役になるのか楽しみですね。
この作品では、アルゼンチンタンゴが重要な役割を果たすとか。
そうですね。僕自身、以前からアルゼンチンタンゴに興味があったんです。そんなにくわしいわけではないんだけど、独特の足さばきがあるでしょう? ああいう足の運びがすごく好きで。いつもやっているダンスとは違うだろうなと思うし、まあ、相手がいての踊りだから、もっとも苦手なジャンルかもしれないけど(苦笑)。なんかでも、不思議と嫌ではない感じがするというか。実際にやってみないと、まったくの別ものなのか、共通する部分があるのか、わからないですけどね。
練習はこれからですか?
これからですね。基本的なことはやっておいたほうがいいかなと思うけど、殺陣とかもそうですけど、気持ちが入っていかないとダメですから。やるからには、感情をいれるところまでいきたいですね。実際に踊っているのは情熱的な血を持っている人々なわけで…、僕自身にはないですから。酒場で目が合って踊るなんて絶対にないし。まず目が合わない(笑)。そこは役として楽しめればいいかな。
では、最後に一言メッセージをお願いします。
今までやったことのない世界のお話ですし、どういう作品になるか、ぜひ楽しみにしていてほしいですね。

瀧本 美織

橋本 じゅん

千葉哲也

原田 美枝子

INTERVIEW

人気作家・藤沢周の芥川賞受賞作『ブエノスアイレス午前零時』。元々藤沢ファンの行定勲は、この作品が刊行された当時から映画化を熱望し、藤沢自身にもその思いを伝えていた。
「藤沢さんのもつハードボイルドな、ちょっと距離を置いて社会を見つめている視線がとても映画的だと思った。静かだけれど凶暴なんですよね。雪深い新潟の田舎の、閑古鳥が鳴いているような温泉旅館からブエノスアイレスに到達するミスマッチさがなんとも魅力的」 藤沢も行定の気持ちを受け止め、その行く末を見守っていたという。 「行定さんの映画は、たとえばラブストーリーでもそのなかに冷酷なものや毒を抱え込んでいて、そこに共鳴する。『ブエノスアイレス午前零時』はいろんな読み方ができると思いますが、行定さんは書き手の核を確実に掴み取っている」
 それが今回、舞台化を果たすこととなったきっかけは、行定と森田剛との出会いだった。映画監督の傍ら、近年は舞台演出も手掛けている行定は森田を見て「現実に縛られた男を演じてほしい。そんな男が奥底にあるものを出す瞬間を演じたらきっと面白い」と考えていたという。実際に二人のタッグが実現することになり、行定の脳裡に浮かんだのが『ブエノスアイレス午前零時』だった。
「森田くんは、決して多弁な人ではない。けれども心の奥に、ひょっとしたら本人も気づいていない何かを隠し持っている感じがするんです。そう感じたとき、主人公のカザマの姿が彼に重なった」
 行定からそのことを聞いた藤沢は当初、意外に感じたという。それもそのはず、小説に描かれたカザマは森田とは似ても似つかない風貌なのだ。
「でも、森田さんと実際に会ってみてわかった。カザマの静謐さ、しかし翳りの中に強烈なパッションを燃やしているところ、それが森田さんにぴったりなんです」
 この小説を舞台化するにあたり、大きなポイントとなるのがブエノスアイレスの描き方。小説ではブエノスアイレスはあくまでも盲目の老嬢の記憶の中にしかなく、現実には登場しない。
「もちろん直接ブエノスアイレスの夜を描くこともできた。でも日本のさびれた温泉地にいるのに、彼女の心の中にはちゃんとブエノスアイレスの夜があるという、記憶の遠近法で表現したわけです。小説では日本からボカの街を思うという一方向の矢印だけれど、これが舞台になればおそらく双方向になるだろう、それがいまから楽しみですね」
 藤沢の思いを受け、行定は脚本家・蓬莱竜太とともに一から話し合い、脚本づくりをしている。
「映画では、一人の俳優が全く違う役を演じるのはかなり難しいけれど、演劇ならばそれができる。自分の奥底にある人間……今回でいえばニコラスになれる。人種も性別も時空も飛び越えられるんです。だから今回の舞台では、小説には登場しないブエノスアイレスが実際に立ち現れます」
 重要な点が小説から大きく変わることになるが、藤沢の行定に対する信頼は揺らがない。それは行定が読者としてきちんと藤沢作品を掴んでいると感じているから。
「僕は小説に決して答えを書かない。だからたくさんの余白が生まれ、そこを読者が読み込んでくださる。もちろん自由に読んでいただきたいんですが、行定さんはいつも確実に捉え、僕自身もびっくりするようなイメージを提示してくれるんです」
長年思い続けてきた作品を、予想しない形で手掛けることになった行定。意気込みは強い。
「藤沢さんの作品は常に戦っている。だから書かれてから10年以上経ってもまったく色あせない。それは僕が映画をつくるときに目指しているところです。演劇に企画の段階から携わるのは初めての経験ですから、プレッシャーはあります。でも、原作を初めて読んだ時の初期衝動のまま、この世界を描き出せれば」
 信頼する読み手による舞台化に対して、藤沢は大きな期待を寄せる。
「小説では『カザマはこう考えた』と書けるけれど、舞台ではモノローグは使えない。森田さんをはじめとするキャストの皆さんの表情、仕草、眼差しで表現していく部分が見どころでしょう。演技によって、新たな世界の風景を開いてくれたらと思っています」

 V6の一員として活躍する一方で、舞台俳優として蜷川幸雄、いのうえひでのり、宮本亜門といった日本有数の演出家から求め続けられている森田剛。彼が次に挑む舞台が『ブエノスアイレス午前零時』。演出を行定勲が務めるが、これは森田自身が熱望した結果。
「行定さんは以前から僕の舞台を観に来てくださっていた。そのたびに寄せてくださる感想がいつも、自分では意識をしてないところばかり。一緒に作品づくりが出来たら楽しいだろうなと思ったんです」
 今作で森田は、都会で挫折し故郷のホテルで働く男・カザマと、ブエノスアイレスのマフィア、ニコラスの二役を演じる。
「一人二役という意識をあまり強く持たず、カザマとニコラスを一人ずつ作っていくことで二人の差が生まれたらいいと思っています。とくにカザマのように心の中に屈折を抱えている男が恋に落ちる、その姿をうまく演じられたら」
 なかでも注目は、劇中で踊られる本格的なアルゼンチンタンゴ。
「元々、タンゴへの興味はありました。きれいだし、足さばきがかっこいい。実際に練習をしてみると、男女二人の距離感や間合いが面白い。互いの熱や感情がこぼれないように踊るのが魅力ですね。殺陣と同じで役が入ってきたらきっとダンスも変わっていくはず。本番では豊かなタンゴをお見せできると思います」