CANDIDE





STORY
青年キャンディードは師であるパングロスから教えを受けている。
「この世の出来事はすべて神の意志によるものだ。だから何事も、自然といちばんよい方向へと導かれてゆくものだ」という、楽天主義の教えである。
キャンディードの恋人・クネゴンデが何者かによって連れ去られ、取り返そうと旅に出た。リスボン大地震に遭い、スペインの宗教裁判では死刑の判決を受ける。さらに、エル・ドラドの伝説の黄金をさがすためにカカンボとともに南米へ出かけて苦難を味わう。そういった数々の冒険を経て、キャンディードは楽天主義の誤りに気がつく。そして、人生とは思ったより短いものだから、幸せも不幸せも同じように受容れ、現実の人生を、素直に、精一杯生きることが何より大事だと悟る。・・……

このようにストーリーは
一見ばかばかしいものです。しかし、宗教という真面目な事柄を、笑い飛ばそうという喜劇性の中に、面白さと風刺の要素が込められたとても手ごわい原作なだけに、幾人もの作家が手を入れても台本は中々バーンスタインの満足いくものにはなりませんでした。そもそも作者ヴォルテールはルソーとともにフランス革命を推進してきた啓蒙思想家で、主人公・キャンディードの運命に身を任せて当時(1756年ごろ)の政治・社会・思想を批判しているのです。作品を貫く気品と機智と明晰さはフランス文学のよき伝統、とまで言われる作品で、一筋縄ではいかないものを書き上げているので、舞台化するための戯曲づくりが難航するのも無理はありませんでした。それにしても、最初の仕上がり時点(1956年)から、バーンスタインの音楽はほぼ完成しており、この点では見事というほかありません。

ロック歌手出身でミュージカルに活動の場を広げる歌手によるキャンディードであったり、超絶技巧のオペラアリアを披露するクネゴンデであったり、クラシック、ジャズ、民族音楽の越境そのものをひとつの様式にした音楽づくりであるなど、領域を超えてパフォーマーを集めるクオリティの高い作品は他に類をみないものです。こういったなりたちを持った結果、エンターテインメント性の可能性が無限に広がる作品になっているのです。


作者、ヴォルテールとは、
18世紀のフランスを代表する哲学者、劇作家。著作は詩、劇、小説、歴史、論説、雑纂書簡に及ぶ多種多様な活動で、驚くべき大量のものでした。ルソーとともに活躍し、後に訪れるフランス革命の第一歩を開いていった重要人物。ルイ14世の死後、フランスは狂気の時代に突入し、ルイ15世、16世治世の中を彼は生きぬきました。
知的ヨーロッパの大御所と言われ晩年こそパリの人気者として脚光を浴びていましたが、それまでは自由思想が国政とぶつかり、批判や処罰の対象とさえなっていました。


「キャンディード」は、
当時の支配階級に受け入れられていたライプニッツのいう人間の楽天主義説を、こっぴどくやっつけるために書いた風刺小説です。「この最善の世界においては、すべては最善に仕組まれている」というバカバカしく、不合理なストア的現実肯定の命題がヴォルテールにとっては我慢が出来なかったのです。戦争で人が死ぬのも、絶対主義や封建社会も天がよし、としているのだから、受容すべき最善の出来事だ、ということの考えを見直させたい、そのための方法として、小説に天真爛漫なキャンディードという青年を誕生させ、旅をさせたのでした。
その中で楽天主義を唱えるパングロスなるものが登場し、キャンディードに楽天的な教説を行ってゆくのですが、いたるところで人間の醜汚と不幸とを見てまわったキャンディードはパングロスの教えに疑問を持ち、次第に正常な目を持つことになってゆきます。パングロスと対照してマーティンという人物も登場させ、こちらは厭世主義を唱えながらキャンディードにかかわらせてゆきます。しかし、そのいずれにもくみしなくなるキャンディードを最後にはつくり、あらゆる実証の後の結論として「何はともあれ、わたしたちの畑を耕やさねばなりません」と言わしめる、人間の基本的なすがたを伝えて幕となるのです。



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