『彼女の言うことには。』北川悦吏子×スタッフ対談vol.2

2012年5月14日(月)

「彼女の言うことには。」は、東京公演を終えて現在地方公演中!
残すところ19・20日の大阪公演と22日の福岡公演です。
というわけで、北川悦吏子さんの対談企画の第2回をお贈りします!!
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『彼女の言うことには。』北川悦吏子×スタッフ対談vol.2
「ステージング、小野寺修二の言うことには。」
北川さんによるスタッフ対談第二弾には『彼女の言うことには。』でステージングを担当している小野寺修二さんが登場! 
一般の人たちには耳慣れないステージングとは、一体どういうことをする仕事なのか。そうしたお仕事をするまでのいきさつも含め、北川さんがお話を聞きました。演出の永山さんも参加したスペシャルバージョンでお届けします。
Onodera
撮影:石川純
 
小野寺修二 SHUJI ONODERA
日本マイム研究所にてマイムを始める。95年パフォーマンスシアター「水と油」を結成。全作品の構成演出に関わり、第2回朝日舞台芸術賞寺山修司賞などを受賞。06年活動を休止。同年文化庁新進芸術家海外留学制度研修員としてパリに1年間滞在。帰国後、新作『空白に落ちた男』を発表。ベニサンピットで53回公演を行い、10年にはパルコ劇場での再演を果たす。08年に「カンパニーデラシネラ」を立ち上げ、マイムを基盤とした身体表現でジャンルを超えた舞台表現の可能性を探る。最近の主な舞台演出作品として『オイディプス』(静岡県舞台芸術センター)、『カラマーゾフの兄弟』(新国立劇場)など。また近年は音楽劇や演劇などで振付を担当することも多い。第18回読売演劇大賞最優秀スタッフ賞受賞。
 
ステージングとはどういう仕事?
 
北川 小野寺さんの仕事はステージングとうかがってますが、ステージングって舞台作品には、必ずあるものなんですか?
 
小野寺 ついていないことも多いですね。振付を担当する方がいたら、その方が一緒にやることが多いと思います。今回振付の(松澤)いずみさんもステージングができる方だし。今回僕はステージングとして、座席の動かし方などにアイディアを出しています。
 
北川 場面転換とかも考えるんですか?
 
小野寺 永山さんが「あまりごちゃごちゃさせず、すっきり見せたい」と言われたのを聞いて、「こういう風にするのはどうですか?」と、僕の考えたものを観てもらって判断してもらうというか。永山さんのイメージに合わせて提案していく感じです。もちろん、いずみさんもいらっしゃるので、二人で考えたりもしますし。
 
北川 私はとにかく脚本を書く時点で、飛行機の中だけの作品をやりたいという気持ちが強くあったんですね。飛行機がパリから成田に着くまでの話をやりたいと思ったんですけど、普通に考えたらこれって無茶なんですよ(笑)。
 
小野寺 はい(笑)。
 
北川 座り芝居でずっと二人が話をしているだけですよね。そこが不安で本当に苦しかったんです。でも実際にできたものを観たら、飛行機に乗るときや、と離陸後で座席の配置が変わるのがすごく面白くて…、(登場した永山さんに)やっぱり一緒に話を聞くんだ(笑)。
 
永山 いやいや、私は横で聞いているだけだから(笑)。
 
北川 一緒に話してくださいよ(笑)。(小野寺さんに)…ああした表現が成り立つまでには、どういうやり取りがあったんですか?
 
小野寺 まず永山さんのほうで「横の絵と縦の絵がほしい」というのは明確に決まっていて。それを座席を動かしてどう表現するか「やってごらんなさい」と(笑)。
 
北川 じゃあ、このシーンは客席に対して正面を向く、とかは決まっていたんだ?
 
小野寺 それは決まってました。そこでシーンを繋ぐためになにをするかを考える。それがステージング…、という言葉に合っているかどうかわからないですけど(笑)。
 
北川 シーンによって、舞台上が夏来と是枝の二人だけになることもあるじゃないですか。そういうことも決めているんですか?
 
小野寺 そこは演出家の判断。どこから二人にしたいかという具体的なことは、永山さんから指示がありました。
 
北川 観ていて、舞台上が夏来と是枝の二人になっても「他の人はどうしちゃったの?」とは全然思わないじゃないですか。それこそステージングの妙なのかなって。
 
小野寺 それは演出の妙ですね、はい(笑)。ただ「違和感なくやれたらいいな」という部分はあって、急に場面が全然違うものに見えないように、気は遣うんですけど。
 
永山 俺が「座席が動いて、ダンサーの人たちは飛んでいく感じで」と言うじゃない? そうすると小野寺さんは座席の展開させ方を考えてくれる。そうすると真ん中にダンサーが残ってるでしょ? そこにいずみが踊りをつけていく。
 
小野寺 永山さんの中に大きな流れがあって、それをどういう絵にするかのパターンをいくつか僕が考えて、それを見て判断していただくんですね。今回のように振付とステージングがいるパターンはめずらしいんですけど、いずみさんと一緒に作れたのはすごく面白かったです。同じ分野でもそれぞれ考え方が違うじゃないですか。だから発見もありましたし。
 
永山 あと小野寺さんに助けてもらったのは(真矢さんが)「飛んでる?」というシーンだね。
 
北川 あ、あれもそうなの?
 
小野寺 あそこはいずみさんから「ここは小野寺さん、お願いします」と言われたので(笑)。「それじゃあ、なんかアイディア出します」っていう。そういうやりとりは二人でがっつりやりましたから。
 
北川 あそこは最初、上から吊るのかな? と思ってたもんね。
 
永山 その「飛んでる?」シーンと、後半のオーロラのシーンもお二人にお願いしたんだよね。
 
 
座席を使ったステージングの舞台裏
 
北川 でも数あるステージングの中でも、やっぱり座席の動きが素晴らしいですよね。
 
小野寺 いやいや、ずいぶんご迷惑をおかけしました(笑)。
 
永山 どういう座席にするかというところから始まって、大変だったからね(笑)。
 
小野寺 もうぎりぎりまで…(笑)。
 
北川 それ、(松井)るみさんに聞いた! 座椅子が中に組み込まれているって。対談でもその話をずっとしゃべってたから、相当大変だったんだろうなって。
 
永山 今回のテーマは座席だから(笑)。
 
小野寺 もう本当に(笑)。ただキャスターをつけると、座席が動いちゃったりすることもあるんですよね。だから真矢さんと筒井さんの後ろで乗客を演じているダンサーさんは、いつも二人の座席の位置を調整しているんですよ。
 
北川 え! どういうこと?
 
小野寺 座席が決まった場所にないと照明からズレるじゃないですか。だから位置を後ろでなにげなく演技しながら、合わせているんです。
 
永山 つまり、乗客が客席を向いて並んでいるときは、真矢さんと筒井くんの後ろにRICOとMATSUがいるじゃない? あの二人は前の座席が動いたら位置を元に戻してるのよ。バミった(目印をつけた)ところに、合わせて位置を直していくわけ。それで乱気流のシーンもみんなで「わーっ」となっている演技をしながら、二人の座席をあの位置に持っていって、一番最後に位置がズレれてないか、MAMIKOがちゃんと調整してから舞台から消えている。
 
北川 そうなんだ! 気づかなかった。
 
永山 細かいことをやっているわけよ(笑)。夏来も是枝も結構動くしね。芝居の中で。
 
小野寺 そうなんですよね。立ったり座ったりだけでも座席がズレたりするので。
 
北川 あんなに座席が動くと思わなかったんですよ。あっちにいったりこっちにいったり、二つになったり散らばったり。それで見せるじゃないですか? 衝撃でしたね。
 
小野寺 僕もやっていて、すごい可能性があるんだなと思いました。
 
北川 バランスがいいですね、本当と嘘のバランスが。脚本を書いている段階では、具体的にどうなるのかがわからなかった。もっともっと抽象的な世界になるんだろうなと思っていたんです。実際に観てみたら本当の飛行機の中みたいだもんね。観た人に聞いたら「自分も飛行機に乗ってたような気がする」っていう人が多いんですよ。
 
小野寺 わかる気がします。
 
北川 ちょっといいですよね。すごく動きがきれいじゃないですか? それはもうセンスですかね? 動きで見せるというか、動きそのものがショーになっている。
 
永山 今回はそういうところも見せようという作り方だからね。普通だと暗転してセットチェンジがあって、それでまた幕が開くみたいな感じだけど、今回はその間をまんま見せようという作りだから。
 
北川 あと、夏来が自分の昔の話をし始めたときに、いわゆるドラマなんかだと、回想シーンになるわけじゃないですか。それを是枝がそこにいて、座ったまま聞いているというのも面白いと思った。あれはやろうとしてもなかなかできないよね。
 
小野寺 面白いですよね。
 
北川 「こういうこともできるんだ!」と思って。
 
永山 でもまあ、舞台だと急にいなくなれないもんね(笑)。
 
北川 (笑)。そういう制約がすべて、いい方向に働いたんだなと思って。
 
小野寺 あと、永山さんからはいい意味で「きれいに作りすぎないで、雑な部分を残していい」とおっしゃっていたんですが、その感じはすごく理解できましたね。観客に見せていいよという部分がはっきりしていたので面白かったし、そこはステージングに反映できたと思います。
 
 
パントマイムとステージングの共通点
 
北川 あと小野寺さんには『13歳のハローワーク』的なことが聞きたくて。こういう仕事を目指している人はどうすればいいんですか?
 
 
永山 もとは何屋さんだったの?
 
小野寺 僕は普通に…、商社で働いてました。
 
北川 ええーっ! 本当に? 大学もそういう関係ではなくて?
 
小野寺 法学部でした(笑)。卒業したのがちょうどバブルの頃で仕事もいっぱいありまして、セメント関連の商社で営業マンとして働いてました。そこに三年勤めたんですけど…、浮かれていたんでしょうね、辞めたいと思って。それでお芝居が好きでもなかったんですけど、今考えると、なんとなくそういうのをやってみたかったんだろうなと思うんです。
 
北川 舞台の仕事を?
 
小野寺 舞台の仕事というか、人前に出たかったんでしょうね。なので会社を辞めてお芝居の学校に行ったりしてました。私塾のような、劇団っぽい学校に行ってたんですけど、そのときにパントマイムっぽいことをやらされたんですね。でもそこで「どうやったらうまくなりますか?」と聞いても「そこは聞いちゃダメ」みたいなことしか言われず(笑)。それでちゃんとパントマイムをやったほうがいいかなと思って、日本パントマイム研究所というところに入って、パントマイムを始めました。そのときは、なにもないのに壁があったり、綱を引っ張ったりするようなパントマイムをやれたらいいなと思ったんですけど、やっていくうちにパントマイムをやろう、という気持ちにすごくなっていきまして。
 
北川 そこに行ったのは、なにかに影響されてですか?
 
小野寺 中村有志さんがそこの卒業生なんですけど、僕は中村さんが好きだったので、パントマイムをやるならそこに行ってみようと思って行きました。でも、それで別に食べていこうとかいうのはなくて、ただ舞台をやりたくて。
 
北川 でも、そのときにはお仕事を辞めているわけですよね? すごく勇気がありますよね。でもプロになるつもりではなかったんでしょう?
 
小野寺 だから浮かれていた時代だったと思うんですよ(笑)。就職しなくても、仕事がいくらでもあるような気がしてたんじゃないかな。
 
北川 いくつくらいのときですか?
 
小野寺 それが27歳。でもパントマイムって営業が多いんです。デパートの屋上に行ったり遊園地に行ったり。だから一人でも仕事になるんです。でも僕にはあんまりそれが向いてないというか…本当につらくて。
 
北川 (笑)。なんかちょっとわかる。
 
小野寺 それで舞台をやりたいなと思って、そこで知り合った人たちと「水と油」という団体を作って舞台を始めるようになって。その団体は四人でやっていたんですけど、06年にいったん止めて、一回海外に勉強しに行って戻ってきて現在に至るというか。今は舞台のステージングを担当したり、いろいろな方々とコラボレーションしながら作品を作っている感じですね。
 
北川 じゃあパントマイムとステージングの共通点ってなんですか? そこがどうつながってるのが気になるんですけど。
 
小野寺 パントマイムってお芝居とダンスの間にあるジャンルなんですね。動きもあるし、しゃべらないにしても演技をする。だからしゃべるお芝居に関しては僕もわからないですけど…、たとえば僕は今回の永山さんの演出で、飛行機の中で夏来がアイマスクをしているところが大好きなんです。
 
北川 あのシーンはドラマっぽいですよね。
 
小野寺 永山さんがそのときにおっしゃってたのは、「映像的に、是枝が夏来を見たらそれでいいよ」ということなんですが、僕はすごくそれがわかると思って。そこで変にせりふでなにかをするより、見るという動きで恋に落ちたのを表現するのって、意外と舞台ではやらないんじゃないかと思って。でも今回、それをやっている。
 
北川 さっき、この舞台をご覧いただいた堤(幸彦)さんが力説してましたよ。私が「お芝居の脚本が初めてで…」と黒木瞳さんとしゃべっていたときに、「映像と違ってアップが抜けない」と言っていたら、堤さんが「違うよ! アップはちゃんとあったじゃないか!」と言い出して。今、小野寺さんがおっしゃたシーンのことなのかな。「あれはアップだよ、抜いているじゃないか!」と力説してました(笑)。
 
小野寺 (笑)。だからすごく映像的な演出で、言葉にちゃんと沿っていきながら、絵で見せるのがすごく面白かった。脚本やイメージがあるところから、それをどう具現化するかということについて、すごく勉強になりましたね。そういうところはパントマイムに近い気がします。マイムも踊るために踊るんじゃなくて、なにかイメージがあって動くようなところがある。たとえば風船をふくらませていると、身体も同化していくと思うんです。自分も風船みたいにふくらんでいくみたいな。そういうイメージとともに身体が動くから、急に踊り出す感じは少ないんじゃないかと思うんですね。今回の飛行機の離陸のシーンも、お芝居を延長してつないで表現している。だからイメージがあって動くという部分でマイムとつながる瞬間があるような気がします。でもこういうマイムとステージングがつながるのはささいな瞬間なので、現場では意外とノーと言われることが多いんです、地味なので(笑)。でも今回、永山さんがそういう部分も汲んでくださって。
 
北川 今回の話って、飛行機で隣り合った人が11時間、一緒にいるという話じゃないですか? だから、普通の飛行機の中という状況で、脚本を書かなきゃいけないという意識があったんです。一度でもその幅からはみ出てしまうと、人って飽きるしもっと振り幅を大きくしてほしいと感じると思うんですよ。だから途中で不時着やハイジャックされたりしちゃいけない(笑)。余りにも苦しくてそれをやりそうになるんですけど。でもこの脚本を書いてみて、そこの幅に気を付けて書いていれば、ささいなことを描いても、作品として行き切れるんじゃないかなと思いました。
 
小野寺 そう、そういうことなのかなと思いますよね。そんな感覚もパントマイムとつながるものがあるように思います。
 
北川 なるほど。今日はいいお話をありがとうございました。ステージングの内容がわかったし、その核心に触れられたと思います。
 
小野寺 僕もお話しさせていただいて、すごく勉強になりました。どうもありがとうございました。
 

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