舞台『チョコレートドーナツ』は、ショーパブの口パクダンサーとその恋人のゲイのカップルが、ダウン症のある少年と出会い、家族になろうとする物語です。渋谷区は、2015年に日本で初めてパートナーシップ証明を導入しました。現在の渋谷区長・長谷部健さんが区議会議員当時に発案し、推進された制度です。
先日、本作の上演に向けて、長谷部区長と演出の宮本亞門さんが対談しました。パートナーシップ証明発案のきっかけや作品の話等々、大変に盛り上がりました。
今回は特別に、対談の模様を一部公開します。
新しい「当たり前」のために
亞門 今回上演する『チョコレートドーナツ』は、ドラァグクイーンを仕事にしている男性とその恋人のゲイカップルが、ダウン症のある少年と出会い、家族になろうとする物語です。渋谷区は、2015年に日本で初めてパートナーシップ証明を導入されました
(※1)。区長は、区議会議員(当時)としてその発案、推進をされたわけですが、なぜ、このことに関心を持たれ、議会で可決されるまでにどんなご苦労があったかをお話しいただけますか。
長谷部 以前から LGBTQ と言われる人たちは身近にいて、よく理解しているつもりだったんですが、この問題に気がつかせてもらったきっかけは、FtM
(※2)の友人を持ったことです。当時ゴミ問題を扱うNPOをやっていて、彼がそのチームリーダーをやってくれていたので、同じ悩みを抱える子たちが集まってきていて。話を聞くと、やっぱり成長過程で、いろいろな苦しい経験をしているんですよね。で、街の課題を解決するのが、区議会議員としての僕の仕事ですから「渋谷区だけでも何かできることがあるんじゃないか」と考えるようになりました。僕は広告会社の出身なので、最初のうちは、法律は無理でも、なにかコミュニケーション、企画としてできることがないかを探っていました。それで「渋谷区だけが認めるようなパートナーシップでも価値があるかな」と彼らに尋ねたら「それでも嬉しい」と言ってくれたので、法的なことを弁護士の方に相談したりしつつ、素案をつくり、議会でも提案したんです。条例が可決成立するまでには、もちろん反対もありました。ネットで批判もされましたし、区役所にファックスが送られてきたり。ただ、間違ったことをしているつもりはなかったですし、議会でも過半数とれる感触は見えていました。ちょうど条例成立のすぐ後に区長選挙があって、推進した僕が渋谷区の舵取りをすることにもなったので、具体的な制度をどうするかということも含め、自然と流れができていった気がします。
亞門 それから現在まで5年以上が経ちますが、議会の方々含め、状況の変化は感じますか。
長谷部 変わりました。今や議会の方々もこの条例を誇りに思ってくれていると思います。この条例ができる前に、前区長の元でこの課題にどう取り組むかっていう委員会がつくられ、当事者からのヒアリングも行われていたんです。そういう機会を通して、否定的だった議員の方も変わっていったと思います。僕自身 LGBTQ の方々のことは知っていても、実際に知り合うまでは FtM の人たちが見えていなかったように、当事者と話していく中でようやく気がつき、問題が見えてくるという効果は大きい。みんな頭ではわかっていても見えていない、会ったことがないから理解が進まないというのはありますから。
亞門 今は渋谷区のほかにも、豊島区や世田谷区などが独自のパートナーシップ制度をつくっていますが、それぞれ違う方法になっているのはどういうことなんでしょう。
長谷部 大きく分けると条例で可決しているのが渋谷区型、区長の専権事項(要綱)として進めているのが世田谷型です。都内だと豊島区や港区も条例化しています。さらに渋谷区の場合は、双方を後見人とする公正証書などの作成を条件にしていますので、たとえば企業の福利厚生の適応とか、住宅ローンや保険の受け取りといったシビアなお金のことについても、渋谷区のパートナーシップ証明を担保に対応できるようにはなっています。
亞門 しかし、残念ながら法的な効力はなく、結局、遺産相続となるとお互いが他人として扱われるというような現状もありますね。
長谷部 それは単純に変ですよね。だからやはり、思いとしては、この制度もできるだけ法律婚に近づけたいと考えました。とはいえ、公正証書の契約にもお金がかかってしまうのですが
(※3)。いずれにせよ、今はパートナーシップ証明書を発行すること自体が大切な段階ですので、どういった形にせよ自治体がその方向に踏み出せていればいいという認識でいますし、それを前提に市区町村間の連携も始まりつつあります。
亞門 この舞台でも、主人公のカップルの前には法律の壁が立ちはだかります。彼らが同性のカップルだということで、どうしても親子の関係が拒否される。そういう事態を考えると、やはりこれからは、国の法律を変えることが最も重要だと思いますが、将来的には同性婚が認められる可能性が日本にもあると思いますか。
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続きは公演パンフレットでお読みいただけます。是非、ご覧ください。
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<プロフィール>
はせべ・けん
1972年渋谷区神宮前生まれ。株式会社博報堂退職後、NPO法人green birdを設立し、まちをきれいにする活動を展開。原宿、表参道から始まり全国60ヵ所以上でごみのポイ捨てに関するプロモーション活動を実施する。2003年から渋谷区議会議員に転身(3期12年)、2015年4月より渋谷区長に就任(現在2期目)。
みやもと・あもん
ニューヨークのオンブロードウェイで東洋人初の演出家として、ミュージカル『太平洋序曲』(2004)を手がけたのをはじめ、ストレートプレイ、オペラ、歌舞伎、能と国内外でジャンルを越える演出家として活躍。パルコ・プロデュース作品では、『ボーイズ・タイム』(99,00)をはじめ、『キャンディード』(01、04)、『メアリー・ステュアート』(05)、『サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ』(09)、『金閣寺』(11,14)、『太平洋序曲』(11)、『ウィズ~オズの魔法使い~』(12・15)、『耳なし芳一』『iSAMU』(13)などを手がけている。近年の活動に、オペラ『金閣寺』(19)、フィギュアスケートと源氏物語を掛け合わせた『氷艶〜月光かりの如く〜』(19)、オペラ『蝶々夫人』(19)など。20年1月にはフランスでワーグナーのオペラ『パルジファル』を上演した。
(※1)「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」(2015年4月1日施行)に基づき、戸籍上の性別が同じ二者のパートナー関係を証明する書類を発行する制度。
(※2) Female to Male 女性として出生し、性自認が男性である人。
(※3) 2020年11月から費用の一部を負担する「渋谷区パートナーシップ証明書取得助成金」がスタートしている。