舞台『ザ・ドクター』東京公演はPARCO劇場にて11月28日(日)まで絶賛上演中です。
今回、スマホアプリ「パルステ!」のゴールド/シルバー会員の中から選ばれた観劇レポーターの皆様より東京公演のレポートを頂戴いたしましたので、ここにご紹介させていただきます。
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『The Doctor』という題名、大竹しのぶを始めとする益岡徹、橋本さとし、久保酎吉ら強力なキャスト陣、それだけの予備知識で私は週末のパルコ劇場の客席にいた。
このタイトルでまずは何を思うだろう。TVドラマにあるような究極の名医?世界に名の轟く第一人者?いやいや。
往年の名画『The Collector』や2005年のベストセラー小説『The Historian』(Elizabeth Kostova著)などがよい例で、人間を表す普通名詞に定冠詞"The"が付くと、英語圏ではたちまち、ある人の本質を言い表した名詞となり、優劣や善悪といったニュアンスは含まれない。
つまり、高名で専門分野を代表する優れた医者、ではなく、「行動原理が医師そのものな人」だという意味。
物語の導入部では、一人の少女が救急病院で不幸な死を遂げ、センター長であるルース・ウルフ教授(大竹しのぶ)は、現場での対応について思ってもみなかった激しい非難を浴びることになる。
ルースという名前はユダヤ系に多く、英語圏の人達にはおそらく序盤からこの論争の構造が見えているし、日本人キャストでは見た目で人種の違いも判りにくいため観客には対立構造がなかなか掴めない。
しかし日本でも過去に、ある宗教を信仰する両親をもつ子供の輸血拒否を巡って大論争が起こったことがあり、この物語の状況は決して遠い外国のことではないのだ。
そして第二幕では彼女を糾弾しようとする様々な論客達の言葉の数々が、頭上を砲弾が飛び交う戦場にも似て、スリリングなディベートの醍醐味を存分に味わうことになる。台本があるとはいっても、これだけの情報量の言葉の応酬をトップスピードでできる、力のある役者たちを揃えられるのはさすがにこのプロダクションならではだ。
「あなたは女性で白人でユダヤ人でしょ、だからこんな行動を取ったんだ」と、論客達は殊更に彼女を特定の属性に分類し、決めつけ、論点をすり替えようとする。この少女はあなたがユダヤ系の白人故に取った行動の結果絶望して死んだのだと。
しかし、彼女はただ「私は医師です」と言い続ける。医師であることは彼女にとって職業や属性でなく行動原理、しかもあらゆる規則、信念の最上位に位置する行動原理なのである。
他人を刃物で切りつけたら傷害罪だが、医師ならば医療行為。それを隔てるのは医師免許の有無だけ。免許を貰った以上、宗教、人種、信条、専門分野に関係なく、「私は医師以外のなにものでもない」と彼女は明確に主張し続け、その心の声に従って行動するのだ。
そして観客である私達に、ではあなたは自分が何者なのか自分でわかっていますか?と強烈に問い続ける。大竹しのぶさんが『The Actor/Actress(演ずる者)』であることは論を俟たない。
さて、私達は自分を一言で言い表せる言葉を持っているだろうか?
きすちょこ さん
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『あなたなら、どうする?』という問いかけを、ずっとされていたような時間。
軽快なテンポの言葉のやり取りに、演者さんのエネルギーがそのまま突き刺さってきました。
ウルフは、『医師として間違ったことは、していない。でも、人間としては。…』性別、人種、宗教…いろいろな立場からの葛藤。舞台が終わった後も、自分だったらどうしていたんだろうと、考えさせられました。
そして、正解がないのが人間なんだろうということに到着しました。
とても素敵な舞台が観ることができて、幸せです。ありがとうございました。
ねこ さん
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大人のための道徳の授業。
そんな時間を過ごすような気分で観劇した。
イギリス最高峰の医療期間でおこったある事件をテーマに、
一つの舞台からさまざまな人間の思想や価値観が映し出され、
宗教、人種、ジェンダーなどの現代社会における問題が、観客に投げかけられる。
「人間である前に、医師だと思っています」と、
自分のとった行動への信念を貫く主人公のルース・ウルフは
正しかったのか、間違っていたのか?
舞台を見終わったあと、私自身、正解と感じる答えが見つかっていない。
もしかしたら、正解がないと思ったことに意味があるのだろうか?
ルース役の大竹しのぶさんが、正義感の強い、芯ある女性の強さともろさを見事に演じられていたのが印象的だった。
こぶち さん
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観る側の想像力が試される作品だったように思う。黄色人種である日本人が黒人や白人をメイクの力を借りずに演じるのが、セリフでしか明らかにされないというある種、極限の見立てとでも言うべきか。
やはり日本人にはハードル高い部分が大きく言葉もキーとなっている作品だけど差別となる言葉についてそんな意味合いがあることが知らなかったりと暗黙知のようなものがわかっていないというのは人種差別を肌感覚として理解できていないと言うことなのが実感できた。
二幕のディベートのシーンなどは迫力があり目が逸らせない。
人間である前に医者というのがカーテンコールで白衣を着ていることでも実証されているようで、それを見て何故か安心する自分がいた。
nori さん
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何の予備知識のないまま、劇場に到達、流石に少しは内容を把握した方が楽しめると思い、開演前にパンフレットを購入、粗筋を頭に入れた。宗教、人種、性差別、ジェンダー、人権などかなり硬派な物語と知り、仕事帰りの身、途中睡魔に襲われないか自信のないまま幕は開いた。舞台美術はとてもシンプル。中央の象徴的な真っ白な長テーブル、事務的な椅子、リーダー席は、背の形状の相違と色が白い。三方の壁には、機能的なベンチが二箇所、座り心地の良さそうなソファが一台。それ以下は、三箇所の開口と光の演出。天井からは、シーリングライト。後半のディベートの場面のみ、一変する。家具のデザインをしているからか、家具が気になる。医療施設と自宅の場面転換だけでなく、家具のセレクト、配置、中央のテーブルの回転、光の差し込む角度、演者のポジション、全てに意味があるのでしょうし、それが気になる。ルースの心情に応じて、かかわる家具を選び、連動しているように感じる。
視覚的なところから、演劇に引き込まれた。ストーリーは、とてもわかりやすかった。だから、あなたならどうすると、演劇中問われているそうな感覚におちいり、心がゾワゾワした。
大竹しのぶさん、最初は声量がないとかんじたのは一瞬、ルースから目が離せなくなった。小柄な身体からの、ものずごいパワーは何なのでしょう。演技が上手いとだけでは片付けられないなにかに圧倒される。
確かに貴方は正しいけど、どうして相手の気持ちを理解しようとしないのか、弱い人間を認めようとしないのか。信念の押し付けほど、相手に辛いものはない。前半のルースの判断、信念を曲げない強さ、後半、信念を押し付けはようとする輩からの攻撃。主義主張、信念の本質は違えど、どちらも大差がないように見えてくる怖さ。大きな声を上げた人、多勢が勝利し、少数派は痛めつけられる。幻と会話するルース、様々な
場面言う、医者でいたかっだだけ。本当の貴方はと、聞きたくなる。自分とどこかオーバーラップしてしまう。女性としての社会的ポジション、仕事の責任、立場、意見が違う人への説明と理解されないむなしさ。歳を重ねるごとに、やりがいと共に、必要とされてないのではないかとの不安。皆が何らしか感じているどうしようもない気持ちが呼び起こされる。私の中のなにかに突き刺さる。
この感じ、いやではありませんでした。とてもいい劇でした。
しのぶさんと演者の皆さん、それぞれ考え、答えを探しながら演じている真摯な気持ち、それがパワーとして、観劇している我々に作用していた。皆すごく集中してると感じました。心に残る劇でした。
ミリ さん
パルコ劇場にて、ザ・ドクターを観劇してまいりました。
大竹しのぶさんが演じる医師 ルース・ウルフはいったいどうなってしまうんだろう!?と心配しつつ、ピンと空気が張り詰めた緊張感いっぱいの中で、約3時間の会話劇を、台詞を聞き逃すまいと集中しながら観劇させていただきました。
私には、ルース・ウルフの医師としての判断は間違っていなかったと思えました。
しかし、部下達や保険担当大臣との対立、研究所の出資者達やネット民からの批判に追い詰められていく姿を、彼女の判断が間違いだったのか?と考えながら観ていました。
観られた皆さんがルース・ウルフの立場だったらどう判断されたかを聞いてみたいです。
そして、信仰 人種差別 階級格差 ジェンダー インターネット社会 さまざまな論点から考えさせられた作品でした。
医師としての自分の信念を貫いたルース・ウルフを、大竹しのぶさんが見事に演じていらっしゃいました。
ルース・ウルフの
「人間である前に、医師だと思っています」
この台詞がとても印象的でした。
どんぐり子 さん
宗教問題、人種問題、幸か不幸か直面したことのない答えの出ない問題。部外の第三者的視点で眺めているしかない。医者は患者の肉体を、神父は死にゆく少女の精神を救おうとした。どちらも救済を試みているのに互いの排除になってしまう、どうにもならない相入れなさが虚しい。立場を捨てた生身の人と人として語らうことが出来るなら。一握の希望はそんなところにしかないのかもしれない。
百々子 さん
大竹しのぶの熱演でした。宗教と医学の問題を軸にして、
キリスト教とユダヤ教、黒人と白人、男性と女性など
カテゴリーに分かれて対立する社会の縮図をつきつけられた
緊迫した舞台でした。
主人公は医師という立場に忠実に行動しますが、結果的に
世間の不寛容さに押し潰されてしまいます。
この生きづらい世の中の問題を考えさせられる舞台です。
また観に行きたいと思います。
やすくん さん
この度は、本公演の観覧に当選させて頂きありがとうございました。さすが栗山さんの舞台というか、言葉遊び、巧みなリズム、後から回収されていく謎というか??の部分が心地よかったです。
外国劇にありがちな、登場人物の名前が多すぎて、最初の方は覚えられず、分かりにくい部分はありましたが、あえてそのままフルネームで行くところ、また日本人が演じている中で、わざわざ黒人である、というような
注釈がないところが面白かったです。あれだけ膨大な量のセリフを特に大竹さんは、どのように記憶し、かみ砕いて演じているのか、それともそのままルースと言う人になり切っているから、湧き出てくる言葉なのか。ただし、
ある種早口で、抑揚の少ない一本調子の話し方をルースがするため、あまりに長いセリフであると、前半は観ている私の頭が固くなるというか、眠気に襲われた時間帯もありました。
無機質な必要最低限のセット、それが研究所内や自宅であるとわかるように展開していくことも面白かったです。大竹さん以外にも、橋本さとし、久保酎吉、明星真由美、床嶋佳子、益岡徹さんのような百戦錬磨の方々の舞台は圧巻で、また若く新しい息吹を感じる、村川絵梨、橋本淳、宮崎秋人、那須凜、天野はなさんたちの演技も鮮烈でした。特にさすがだと感じたのは、床嶋佳子、益岡徹さんでした。大竹さんが本当に「主役中の主役」の芝居でありながら、このお二人の存在感に安心する自分がありました。特に後半(二部)は、ずっとひきつけられていき、どんどんクライマックスになっていく感じがありました。ともすれば日本人は「単一民族」と言われますが、本当はそれぞれ自宅に戻れば、自分たちのルーツのある言語で話す家庭もあるかもしれません。表立って自分の信じる宗教の話はしないことが殆どで、人とその話をするのは、勧誘のようになってしまうこともあるのか、タブーとされていて、本当は自分の心の拠り所であるのに、大切な友人にも話せない、話さない。自分の家族や近しい人の中にも、LGBTQの人がいても、当たらず障らず・・というのが、未だ多いのかもしれません。今回はイギリスが舞台ということで、特に肌の色が何色かということは、見た目で顕著なわけで、それはいわゆる日本社会の中では、あまり感じにくいことかもしれません。ルースの言葉の中で、「自分はどのグループにも属さない。自分は”医者”である、ということだけ。」と言う内容が繰り返されました。人間でも、女性でも、白人でも、ましてや特権階級のグループでもなく、医者であると・・この舞台を見終わった後も、自分ならそこまで強い意志や言葉、決意があるだろうか、ただなんとなく、母として、学校職員として、生きていて、あまりそこまで突き詰めたことはないということを実感しました。益岡さん演じる神父が、「自分の中には何千(?)人もの人が内在するが、それら全てに任務を与えることはできない」という内容のことをおっしゃっていたのも、強い印象が残りました。日々の忙しさにかまけ、その日その日を消費することに精一杯で、突き詰めて生きようとはしていない、または見つめようとしていないのかもしれない、と感じた舞台でした。
ちゃマミ さん
※レポートを11/17に5件追加いたしました!お送りいただきありがとうございました。
皆様、ご来場とレポートありがとうございました。またのご応募をスタッフ一同心よりお待ちしております!
舞台「ザ・ドクター」は2021年11月28日(日)までPARCO劇場にて上演いたします。
その後は、兵庫、豊橋、松本、北九州にて上演いたします。
詳細は下記作品ページより各公演ページをご覧くださいませ。
https://stage.parco.jp/program/doctor/
沢山のご来場お待ちしております!