人間の業・背負うべき十字架に向き合わせる稀有な戯曲

人間の業・背負うべき十字架に向き合わせる稀有な戯曲

2022年9月29日(木)

 戯曲の1ページ目からラストまで、文字通り一息で読み終えた。次に何が起こるか予測不能なモノローグ(独白)の連なりは、脳に直接語り掛けてくるような強烈さで読み手を(後の観客を)支配する魔力を持っている。
 
 登場人物は小児性愛者で連続殺人犯のラルフ、ラルフに娘ローナを殺されたナンシー、そしてラルフを研究対象とする精神科医アニータの3人。そこに、3人の語りで表される姿を持たぬ数人が加わり、膨大なモノローグの合間に組み合わせを変えたダイアローグ(対話)が織り込まれていく。
 
 10歳の少女ローナが行方不明になる。それから20年後のある日、児童連続殺人の犯人としてラルフが逮捕され、ローナも彼の犠牲者だったことが彼女の母ナンシーに知らされる。凶悪な犯罪を犯す人間の、脳内機関の欠損や変質について研究するアニータは、ラルフの担当医として彼の心と記憶の深層を解き明かしていくが……。
 
 登場人物たちはみな、大きな欠落を抱えている。成長過程で与えられるべき愛情を知らず、虐待を受けていたラルフ。愛する娘の失踪以降、家族の絆と心の平穏を奪われたナンシー。あり得ないはずの感情的な過ちを犯した矢先に、親友で共同研究者だった人を事故で亡くしたアニータ。劇中では奪われた者同士が出会い、互いを知っていくが、そのことが慰謝や再生にすぐには繋がらないのが『凍える』という作品の手ごわさであり、味わいどころと言えるだろう。
 
 この精妙な戯曲がどう立ち上げられているのか、9月半ばの某日、稽古の様子を見る機会を得た。
 
 照明の光量を落とした稽古場では、キャスト、スタッフの別なく全員が、声を抑え控えめに会話しているよう。演出の栗山民也が指定した場面をラルフ=坂本昌行、ナンシー=長野里美、アニータ=鈴木杏が演じ、区切りまで来るごとに一つのテーブルに集まって、演出家のオーダーや俳優の感じた疑問などについてディスカッションが行われる。
 
 人として許されざる行為に執着し罪悪感すら定かでない難役ラルフを、台詞一つ一つをを丁寧に咀嚼しながら掘り下げていく坂本。激しく揺れ動くナンシーの感情に、時に自らをぴたりと重ね、時には俯瞰の距離をもって体現していく長野。医師として冷静かつ客観的な視点で観察・思考しながらも、抑えきれず激情を迸らせるアニータを鮮烈に表現する鈴木。三俳優それぞれの取り組みに応答しつつ、作品全体の進むべき方向を端的な言葉で示す栗山は、気まぐれな潮流や数多の岩礁を抱く難所を進む船の船長のようだ。
 
「芝居がかった台詞術では、この戯曲に書かれた“人間の感情”は表せない。俳優が内心で行う演技のための準備を極力排し、役の感情そのままに舞台上で言葉(台詞)を吐かなければならない」とは栗山の言葉だが、喪失に深く傷つく登場人物たちを“つくりもの”にせぬための強い意志が窺われた。
 
 イギリスでの初演は1998年で今から20年以上前のことだが、家族同士での殺傷や子どもへの虐待など、常軌を逸した事件が頻発し日夜報道されている、今の日本にこそ今作は強く訴求するはず。虐待により多くを奪われ、脳にダメージを受けたラルフの「罪」をいかに問うべきなのか。少女たちの命を奪った「罪」を贖うため、ラルフが受けるべき裁きはどのようなものか。ナンシーの憎しみ、アニータの後悔は「罪」なのか……。
 
 『凍える』にはそんな、人間が人間であるために考え続けねばならない、“答えのない問い”が満ちている。問い続けるその先で直面する人間の深い業、誰もが生きていくうえで背負わされる十字架の存在が、舞台に大きく配された十字に重なり、観る者の心の楔(くさび)となる。観ることで自分の生きる姿勢を問い直す、稀有な作品になるに違いない。
 
 
文・尾上そら
フリーランスの編集者・ライター。新聞や雑誌、書籍、映画や演劇のパンフレットなどで企画・編集・取材・執筆を手掛ける。演劇、ダンス、古典・伝統芸能まで幅広く取材。国内各地の舞台芸術にかかわる様々な人と事象を取材・記録している。
 
写真:岡千里 9月中旬稽古場にて撮影

 

 
 
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【公演情報】
パルコ・プロデュース2022
「凍える」
 
日程:2022年10月2日(日)~24日(月)
会場:PARCO劇場
 
作:ブライオニー・レイヴァリー
翻訳:平川大作
演出:栗山民也
出演:坂本昌行 長野里美 / 鈴木 杏

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