2024年6月 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール、7月 PARCO劇場を皮切りに、8月には愛知、兵庫、福岡を巡演する舞台
『オーランド』。
18世紀、19世紀と、激動の時代を超えて生き続け、数々の運命の人々に出会い、自らを見つめ続けるオーランドを演じる
宮沢りえさんに、作品の魅力や意気込みなどを語っていただきました。
── 栗山民也さんの演出作品には、初めてのご出演となります。
尊敬している栗山さんと初めてご一緒できること、そして、栗山さんから『オーランド』という作品をご提案いただいたことが嬉しくて、怖さもあったけれど、ここに飛び込んでみようと思いました。栗山さん演出の作品はいくつも拝見していますが、舞台の空間、光、人物のミザンス(配置)と動きなど、そのトータルによって芸術作品を立ち上げていらっしゃることに、いつも感動します。役者仲間で栗山さんの舞台に出演されている皆さんが「また一緒にやりたい」とよく仰っているので、栗山さんの演出は一度経験すると虜になるのでしょうね。ですから今回、この100年近く前に書かれた物語をどのように表現されるのか、また、私たち役者をどのように演出してくださるのかを、とても楽しみにしています。それに今回は小野寺修二さんがステージングで入られるので、さらに視覚的に面白くなるんだろうなと期待しています。
── ヴァージニア・ウルフの小説を岩切正一郎さんが翻案された今回の台本はいかがでしたか。
16世紀から20世紀までの約350年を生き続ける人物を描くファンタジーではありますが、台本にはその時代時代が持つメッセージや文化、背景も反映されています。読みながら、それをいとも簡単にふわりふわりと飛躍していく〈オーランド〉を体現するには、どうすれば良いんだろう、きっと莫大な想像力が必要になるだろうなと。そういう想像力を搔き立てるような表現ができるのは舞台ならではですし、それを強く意識した戯曲だと思いました。それに、言葉が美しくて。読んでいると、心地の良い言葉の音とリズムが脳裏に響きました。ただ、それを覚えて台詞として言わなければならないんだと思うと、とても恐ろしくもあるのですが(笑)。
〈オーランド〉は「《愛》とは、どういうものなのか」ということを深く長く追い求め続けるのですが、その大きなテーマを重々しくなく、身近に感じられるように描かれていることも魅力の一つだと思います。現代に生きる私たちにも響くシーンや台詞がたくさんありますので、楽しみにしていてください。
── 〈オーランド〉という役の印象、魅力を教えてください。
男性と女性という二つのジェンダー(性)を演じることができるのは、役者冥利に尽きると思いました。舞台上で何役も演じ分けるという経験はあまりありませんので、〈オーランド〉という一人のパーソナリティではありますが、時代をどんどん超越し、そして性別が変わるという役は本当に楽しみで、台本を読みながらイメージを膨らませています。ただ、男性から女性へと変化するときの飛躍力をどのように表現できるか……。舞台で男性を演じるのも、一つの作品の中で役が変化するのも初体験ですので、私にとっては未知の世界。ただ古来、日本でも外国でもジェンダーレスな方は多く存在していましたから、そういう歴史上の人物についても振り返ってみようと思っています。
── そういう人物を宮沢さんが演じられることも本公演の魅力の一つです。
私自身、平坦ではない生き方をしているほうだと思いますので、観客の皆さまが記憶していらっしゃる私の半生や印象と、〈オーランド〉の姿が重なって、不思議な相乗効果が生まれると良いなとは思っています。私は日本人とオランダ人のハーフなのですが、私が10代の頃はまだハーフの人が特別な目で見られていました。その影響もあって、子どもの頃から人種や性別や年齢といったラインにとらわれることなく、パーソナル、つまり、一人の人間として生きたいという気持ちを強く持っていたように思います。〈オーランド〉とは生きている時代も国も違いますが、自分自身の中に〈オーランド〉が生きているような、DNAの中にミックスされているような不思議な感覚を覚えることがあって。それはきっと価値観みたいなものが重なる部分があるからだと思います。
── 共演者の皆さんの印象をお聞かせください。山崎一さんとは何度も共演を重ねられていますね。
一さんは、とてもチャーミングな演劇少年で、穏やかで平和の塊みたいな方。普段は「アホ」「まぬけ」と言い合っているのですが(笑)、本当に劇曲を読み解く力をお持ちで、ここぞというときにはヒントやアドバイスをくださるので頼りにしています! 本当に芝居のことを考えて歯に衣着せぬ意見をくださるので、とても有難いですし、刺激になります。
河内(大和)さんとはNODA・MAP『MIWA』(2013年)でご一緒していますが、4人芝居の『THE BEE』などにも出演されていて、野田秀樹さんが信頼されている方という印象なので、心強いです。谷田(歩)さんとは大河ドラマ(2011年『江〜姫たちの戦国〜』)でご一緒しましたが、舞台でご一緒するのは初めて。栗山さんが演出された『ロスメルスホルム』(2023年)を拝見しましたが、谷田さんの肉体のパワーと響く声は印象に残りました。KERA CROSS『骨と軽蔑』で共演していた鈴木杏ちゃんが、「野生児で楽しい方だよ!」と仰っていたので楽しみです。ウエンツ(瑛士)さんはバラエティ番組でご一緒した際に、朗らかに明るくトークを引っ張ってくださる聡明な方という印象を持ちました。カメラが回っていないときにもいろいろと気を配ってくださる方ですから心強いですね。
皆さんから、心の底からお芝居を大切にされているのが伝わってきて、一緒に創り上げたいという気持ちがより一層強くなりました。もちろん〈オーランド〉を演じる私が飛躍しないと作品としては成立しないのですが。皆さんもいろいろな役柄を担わなきゃいけなくて大変だと思いますが、真摯に挑戦される方ばかりなので安心感があります。
── 『オーランド』のお稽古に入られる前の意気込みをお聞かせください。
時代を超え、そして性別をも超えていくという飛躍力が必要な役を演じることに大きなプレッシャーを感じていますが、栗山さんを信じていますし、不安や怖さはありません。その日その時間その一瞬のお芝居に対して熱意を持っている演劇オタクのような方たちと一緒に創り上げることができるので本当に心強いです。
── あらためて、宮沢さんにとって舞台、演劇とは?
自分の幅を膨らませる場、でしょうか。舞台は一つの芝居について深く深く掘り下げていく時間、準備期間を持つことができますから。作品に対して継続的に考えたり、それを体現したりすることで、自分の血肉となり、土台となる。もちろん映像でも大変なエネルギーや瞬発力を使うことで今までになかった自分に出会える瞬間を得ることができますが、舞台では自分の価値観、芝居に対する姿勢や考え方を確認することができますし、それによって自分の内面がふくよかになる感じがするんです。自分の中身が瘦せ細らないために、舞台に立っているように思います。
舞台は体力が必要でしょう? とよく言われますが、実は私、舞台でヘトヘトになった記憶はほとんどありません。稽古という時間を重ねて舞台の上に立つと、何か満ちる感じを得ることができる。劇場という空間の中に、観に来てくださる方たちのエネルギーと、作品を創り上げるスタッフ・キャストのエネルギーが溢れる特別感。今この瞬間にしかない舞台、作品、時間、空気を共有している喜びを感じることができるんです。
観客としても劇場という空間に密度が増すときにエネルギーが渦巻く感覚が好きなんです。劇場の広さ以上の想像力を搔き立てられて、生まれるはずのないものが生まれるような感覚を味わうと幸せな気持ちになります。
取材・構成:金田明子
【公演情報】
PARCO PRODUCE 2024
『オーランド』
原作:ヴァージニア・ウルフ
翻案:岩切正一郎
演出:栗山民也
出演:宮沢りえ ウエンツ瑛士 河内大和 谷田歩 山崎一
ヴァイオリン演奏:越川歩
埼玉公演:6月29日(土)・30日(日) 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
東京公演:7月5日(金) 〜28日(日) PARCO劇場
愛知公演:8月1日(木)〜4日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
兵庫公演:8月8日(木)〜11日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
福岡公演:8月16日(金)〜18日(日) キャナルシティ劇場
<4/20(土)より埼玉・東京公演チケット一般発売開始>
https://stage.parco.jp/program/orlando2024