必然の出会いが生んだ、心を揺さぶる愛の物語 ~映画版『チョコレートドーナツ』のこと~

必然の出会いが生んだ、心を揺さぶる愛の物語 ~映画版『チョコレートドーナツ』のこと~

2023年8月30日(水)

舞台『チョコレートドーナツ』2020年初演時のパンフレットに寄稿いただいた、映画・演劇ジャーナリストの若林ゆりさんによる、映画版『チョコレートドーナツ』についてのコラムを公開いたします。
(2020年初演時のパンフレットは販売終了しております)
 

 
 心から共鳴できる低予算映画と出会いたいなら、各国の映画祭で“観客賞”に輝いた作品を見つければいい。それは映画ファンたちの心を掴み、熱い支持を受けたという証だから。『チョコレートドーナツ』もまさに、そんな作品のひとつ。愛されるべくして愛される映画だ。
 
 1970年代末のロサンゼルス。場末のゲイバーで、“ボーイ・ミーツ・ボーイ”からラブ・ストーリーが始まる。女装口パクパフォーマーのルディに目が釘付けとなっているのは、長年隠れゲイだった検察官のポール。ふたりはあっという間に恋に落ちるが、その直後に始まるのがもうひとつのラブ・ストーリー。ルディはドラッグ依存症の母親に放置されたダウン症のある少年、マルコと出会い、彼に深い愛情を抱くようになるのだ。ルディとポールはマルコと“家族”を作り、幸せな時間を共有する。しかし社会の偏見と差別、無理解が、3人の愛に満ちた関係を引き裂いていく。
 
 ゲイやオネエのキャラが人気を博し、同性婚やLGBTの養子縁組を認める地域が増えてきた昨今でさえ、世界に差別はいまだ根強く残っている。70年代なら推して知るべし。3人の愛と闘いは、想像を絶する壁に阻まれ、絶望を呼ぶ。しかし、これはマイノリティ差別を描いた社会派ドラマというより、異色のラブ・ストーリーといった方がふさわしい作品だ。3人のはみだし者が惹かれ合い、ただ相手を想って心を尽くす。描かれているのは何の見返りも求めず、犠牲も厭わない、ただの愛だ。その愛のリアルな描写が、観る者の心を打つのだと思う。だから、涙にむせぶような結末の後でさえ、温かさが残るのだ。
 
 ルディはなぜ、マルコを愛するようになるのか。台詞やエピソードでの説明は、映画にはない。しかし、説明なんかされなくたってよくわかる。演じるアラン・カミングの繊細な表情が、すべてを物語っているからだ。味わってきた孤独、差別や心ない仕打ちに耐えてきた日々が、マルコを見る慈愛に満ちた目を、くしゃくしゃの笑顔を見れば痛いほど伝わってくる。マルコを演じるアイザック・レイヴァの表情も、たまらなく魅力的。そこには嘘がない。
 
 一方で、この出会いによって急激に成長し、変化を遂げるポール(ギャレット・ディラハント)にとってのラブ・ストーリーも、深い。彼はマルコを受け入れるだけではない。ルディが愛したからではなく、ルディと同様にただマルコを愛するのだ。そして愛の力によって恐れを捨て、「法律で世界を変えよう」と意気込んでいた昔の情熱を取り戻す。純粋、なんて言葉にすると嘘くさくなってしまうほどシンプルで尊い愛が、なぜ社会には許されないのか?
 
 そんな怒りとやるせなさを込め、ルディが歌いあげるボブ・ディランの名曲「I Shall Be Released」が、心に刺さる。カミングが全存在を懸けた炎のような歌声は、魂の叫びそのものだ。「いますぐにでも、私は解放される」という歌詞の「いますぐにでも=Any Day Now」が、映画の原題。この歌は、映画の公開から10年近くを経たいまも鋭く刺さるだろう。
 
 この映画は実話を元にしたものだと思われがちだが、実は違う。実話にインスパイアされた作品、というのが正解だ。
 
 脚本・製作・監督を務めたトラヴィス・ファインが次の監督作にふさわしい題材を探していたある日のこと。高校時代の級友でもある音楽監督PJブルームに見せられたのが、彼の父親で脚本家のジョージ・アーサー・ブルームが30年前に執筆した作品だった。70年代、ニューヨークのブルックリンに住んでいた脚本家は、近所の有名人だった派手なゲイの美容師、ルディと顔見知りだった。彼と同じアパートには麻薬依存症の母親に見放された自閉症の男の子がいて、ルディはしゃべれないその子を学校に連れて行き、まるで父親のように面倒を見ていたという。その関係に胸を打たれた脚本家が「ルディが男の子の親権を得ようとしたら?」という発想から書いたオリジナルの脚本が、この映画の原型。作品は映画化されかかったこともあったが、結局は30年近くも机の引き出しに眠っていたのだった。
 
 この作品に心惹かれるものを感じたファイン監督は、脚本家の許可を得て、脚本の再構築に取り組む。ポールのキャラクターを書き加え、ラブ・ストーリーにしたのは監督だ。彼はゲイではなく3人の子をもつ父親だが、当時、離婚して17歳の長女との間を引き裂かれた状態にいた。このときの個人的な心の痛みを、作品に投影したのだ。
 
 さらに、エグゼクティブ・プロデューサーのウェイン・ローリー・スミスとダニエル・E・スケイヘンは、20年来の絆で結ばれた同性愛カップル。彼らは99年、育てていた子どもを養子にすることをフロリダ州に拒否され、同性愛者による養子縁組を禁じる法令を人権侵害として提訴。最高裁まで闘って勝訴し、知的および身体障害をもつ子どもを33人も養子として育ててきた。彼らの実体験が作品に生かされていることは言うまでもない。だからこれは実話の映画化ではないにせよ、実感のこもった映画であることに間違いはないのである。
 
 ファイン監督は俳優出身だけに、この映画の成否が役者にかかっていることを知っていた。ルディのキャスティングを考えていた彼が最初に思いついたのは、当時ゲイを公表し、代理母による子どもの親権を得ていたリッキー・マーティンだったという。ところが、彼のエージェントに役の説明をしていた監督は、「それってアラン・カミングについての説明みたい」という感想を聞いてハッとする。「どうしてカミングを思いつかなかったのか!」。スコットランド出身のカミングは女性との結婚・離婚歴もあるバイセクシュアルだが、07年には同性婚を公表している。ミュージカル「キャバレー」などで、ショーマンとしての魅力もお墨付き。それに何より、“人間力”がある! この映画を“お涙頂戴のメロドラマ”から救っているのは、俳優たちが心を丸裸にして見せた迫真の演技だ、とつくづく思うのだ。
 
 さて、この映画が舞台作品になる。これはもう、必然と言える。嬉しいのは、演出を担当するのが宮本亞門だということ!
 
 ミュージカルからオペラまで、さまざまな舞台を演出、成功に導いてきた亞門さんから感じるのは“エネルギー”と“パッション”、そして“人間愛”。そこには嘘がない。ファイン監督と意気投合したというのも頷けるし、黒澤明監督の『生きる』を躍動感溢れるミュージカルに仕立てた彼のこと、もう楽しみでしかない。脆さも剥き出しにするルディ役にクールでカッコいいイメージしかない東山紀之さんとは意外な気もするが、どう殻を破ってくれるか。きっと初めて目にする彼の“剥き出しの人間力”に、心揺さぶられるだろう。その日が待ち遠しい。
 
 
 
わかばやし・ゆり
女性誌の編集を経て、映画雑誌「プレミア日本版」の編集部へ。この間にクエンティン・タランティーノ監督らと親交を結ぶ。その後、フリーとして独立。劇作家だった父親の影響で幼いころより大の舞台ファンでもあり、演劇関係の取材・執筆も多数。現在、映画.comでコラム「舞台.com」を連載中。
  
 

 
舞台「チョコレートドーナツ」東京公演は10月8日(日) より、PARCO劇場 にて上演!
>東京公演の詳細はこちら
 

 
【公演情報】
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
『チョコレートドーナツ』
 
原作:トラヴィス・ファイン/ジョージ・アーサー・ブルーム
(トラヴィス・ファイン監督映画『チョコレートドーナツ(原題:ANY DAY NOW)』より)
翻案・脚本・演出:宮本亞門
訳詞:及川眠子
出演:
東山紀之
岡本圭人
八十田勇一、まりゑ、波岡一喜、綿引さやか
斉藤暁、大西多摩恵、エミ・エレオノーラ、矢野デイビット、穴沢裕介
丹下開登・鎗田雄大・鈴木魁人(トリプルキャスト)
高木勇次朗、シュート・チェン、棚橋麗音、小宮山稜介
山西惇、高畑淳子
 
東京公演:10月8日(日)〜31日(火)PARCO劇場
大阪公演:11月3日(金・祝)~5日(日)豊中市立文化芸術センター 大ホール
熊本公演:11月10日(金)・11日(土)市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
宮城公演:11月16日(木)18:30開演 東京エレクトロンホール宮城
愛知公演:11月23日(木・祝)13:00開演 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール

作品ページへ

Attention

Attention

The following pages are about services provided for foreigners who live in Japan.
Foreigners who are not residents may not have access to all services.
Please agree after confirming the following items.

In the following pages, sections without English translations are displayed in Japanese. In such cases, please use a web translation service. Please note that our company is not responsible for the translations and that the translated pages are provided to customers for reference. Descriptions of our content and services conform to the original Japanese text.

Call center services are only available in Japanese. Please note that inquiries in other languages cannot be accommodated.
Please be aware that some of the services we offer may not be available to those living outside Japan

注意和確認

下一頁是外國人的服務。
對於外國非居民,我們將無法提供所有服務。
請確認並同意以下內容。

  • 後續翻譯頁面使用機器翻譯。 因此,翻譯頁面並不總是正確的。
  • 此外,我們對翻譯不承擔任何責任。
  • 翻譯頁面僅供參考,因此日語頁面的內容優先。
  • 呼叫中心僅提供日語服務。 請注意,我們無法回答日語以外的問題。
  • 我們提供的某些服務不適用於非居民。

注意和确认

此后的页面是为外国居民提供的服务。
对于外国非居民,我们将无法提供所有服务。
请确认以下内容并同意。

  • 后续翻译页面使用机器翻译。因此,翻译页面并不总是正确的。
  • 此外,我们不对翻译负责。
  • 翻译页面仅供参考,因此日语页面的内容优先。
  • 呼叫中心仅提供日语服务。请注意,我们无法回复日语以外的查询。
  • 我们公司提供的某些服务可能不适用于非居民。

주의 및 확인 사항

이 페이지는 외국인 거주자를 위한 서비스입니다.
외국인 비거주자 고객님의 경우 제공할 수 없는 서비스가 있습니다.
다음을 확인, 동의하신 후에 이용해주십시오.

  • 이 번역 페이지 내용은 기계 번역을 사용하고 있습니다. 따라서 번역 페이지는 반드시 올바른 내용이 아닐 수 있습니다.
  • 또한 당사는 번역의 결과에 대해 일체의 책임을지지 않습니다.
  • 번역 페이지는 어디까지나 참고를 위한 번역이며 기재된 내용은 일본어 페이지를 준수합니다.
  • 당사가 제공하는 서비스 중 일부는 비거주자 고객이 사용할 수없는 서비스도 있으므로 양해 바랍니다.

ATTENTION(日本語)

Lorem ipsum dolor sit amet, consectetur adipisicing elit, sed do eiusmod tempor incididunt ut labore et dolore magna aliqua.

Ut enim ad minim veniam, quis nostrud exercitation ullamco laboris nisi ut aliquip ex ea commodo consequat.

Duis aute irure dolor in reprehenderit in voluptate velit esse cillum dolore eu fugiat nulla pariatur. Excepteur sint occaecat cupidatat non proident, sunt in culpa qui officia deserunt mollit anim id est laborum. Sed ut perspiciatis unde omnis iste natus error sit voluptatem accusantium doloremque laudantium, totam rem aperiam, eaque ipsa quae ab illo inventore veritatis et quasi architecto beatae vitae dicta sunt explicabo.

  • Lorem ipsum dolor sit amet, consectetur adipisicing elit, sed do eiusmod tempor incididunt ut labore et dolore magna aliqua.
  • Ut enim ad minim veniam, quis nostrud exercitation ullamco laboris nisi ut aliquip ex ea commodo consequat.
  • Duis aute irure dolor in reprehenderit in voluptate velit esse cillum dolore eu fugiat nulla pariatur.