ミュージカル『おとこたち』の部屋☆覗き見レポート Vol.3

ミュージカル『おとこたち』の部屋☆覗き見レポート Vol.3

2023年2月27日(月)

2014年に初演、2016年に再演され、演劇界に衝撃を与えた『おとこたち』(作・演出=岩井秀人)がミュージカルとなって新たに幕を開ける。音楽を担当するのは『世界は一人』(2019年)に続き岩井とタッグを組む前野健太だ。4人のおとこたちの60年に渡る物語がオリジナルミュージカルとしてどう立ち上がり、どんなふうに観客の前に姿を現すのか。連載第3回目となる今回は、稽古場で演劇的な場面が練られていく模様をお伝えしたい。
 
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 Vol.3<オモシロ場面こそ試行錯誤>

 
全体稽古開始から約1ヶ月。ミュージカル『おとこたち』の稽古場には本番の舞台と同じ仕様のセットが組まれていた。ちょこっと雰囲気をお伝えすると、あちこちに謎の柱が立っていたり、隠れ家系居酒屋のVIP席のような場所があったり、ゆるいスロープ的なものが作られていたりと、なにやら大人が遊べる公園のような造形である。
 
この日は場面ごとの抜き稽古。まずは妻・良子(川上友里)がありながら、バイト先の女子・純子(大原櫻子)と不倫中の森田(橋本さとし)がそれぞれの女性に適当な嘘を吐くシーン。なかなかのクソ野郎モードで場を切り抜けようとする森田だが、演じる橋本が美し気なナンバーを歌い上げる姿につい騙されてしまいそうになる……そうか、これがミュージカルの魔法か!(多分違う)。
 
続いてはアルコールへの依存で撮影中も酔っている俳優・津川(藤井隆)が、本番中、相手役の女優・若子(大原櫻子)にとんでもないことをやらかす場面。ムーブメント担当、エリザベス・マリーの指揮のもと、殺陣やダンスの振りがつけられ、悪の組織に捕まったはずの若子が悪者たちと笑顔で踊るハイポジションなシーンも誕生した。うん、やっぱりダンスにはさまざまな整合性を飛び越える力があるね、これはもうインド映画だね(絶対に違う)。
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と、ここまで読んで「え、これ、大丈夫なの?」と感じたあなた、安心してほしい。たとえばラテンのリズムに乗ってどんな風に森田が登場するのが正解か、津川が女優に対して出したアレをどう見せれば効果的なのか等、最高に面白い場面を成立させるためのディスカッションが、俳優たちと作・演出の岩井秀人らクリエイター陣の間でめちゃくちゃ真面目に繰り広げられている。一見、バカバカしく見えるシーンこそ、じつは多くの試行錯誤を経て構築されているのである。
 
ディスカッションの口火を切るのは鈴木役の吉原光夫。本役以外でもさまざまなキャラクターを担う吉原は自らの提案や意見を岩井や共演者たちに投げかけていく。それに対し、大原はおもに音楽部分ついて自らのアイディアを伝え、藤井は笑いのテクニック部分で呼応。さらに、物語の柱となる語り部的ポジション、山田役のユースケ・サンタマリアは、そのさまを父のように見つめる。岩井は俳優たちから出たどの提案を採用するか精査し、演出家として舵を取りながら、最適解を探っていく。
 
これも海外発のミュージカルを本国での演出込みで購入し上演する、いわゆる“レプリカ公演”とは異なるミュージカルの創作方法だ。さまざまな自由度は高くなるが、その分、生みの苦しみも大きい。『おとこたち』はこれまで2度ストレートプレイとして上演されているものの、今回は劇場の規模も違うし、何より音楽が重要な役割を果たすミュージカル版。芯の部分は同じとの前提はありつつ、演出家も俳優も担う“仕事”の色合いが異なってくる。
 
あれ……?超今更だけど、岩井はなぜ『夫婦』や『て』、『ヒッキー』シリーズでなく『おとこたち』をミュージカルにしようと思ったのだろう。「それは『おとこたち』が圧倒的に強靭なドラマを宿しているから。そして何より、この物語が悲劇だからでしょうね」(岩井談)。悲劇?確かに『おとこたち』を観ていると、大笑いしながらいつの間にか身体中に切なさが走り、スーっと涙が頬を伝わるような感覚になる。笑えるけど悲劇……泣きながら笑っちゃうミュージカル。うん、稀有である。
 
さて、この稽古場覗き見レポートも残すところあと2回。おそらく次回は楽曲と演劇のマリアージュ=通し稽古の模様をお伝えできるはずだ。
 
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取材・文 上村由紀子(演劇ライター)
大学の演劇科を卒業後、舞台作品や映像への出演、FMラジオDJなどを経て取材の現場へ。幼少時からの観劇本数は約4000本。演劇・ミュージカルの専門家としてTBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界)、『アカデミーナイトG』等のメディア出演や番組監修、トークイベントの構成・司会も多数。
 
 
 

 
 
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PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
ミュージカル「おとこたち」
 
公演日程:2023年3月12日(日)〜4月2日(日)
会場:PARCO劇場

脚本・演出:岩井秀人
音楽:前野健太
出演:
ユースケ・サンタマリア 藤井隆 吉原光夫 
/大原櫻子 川上友里/橋本さとし
梅里アーツ 中川大喜
演奏:pf.佐山こうた b.種石幸也
 
 
▼プロダクションTwitter更新中!
ミュージカル「おとこたち」公式Twitter@otokotachi2023

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