ミュージカル『おとこたち』の部屋☆覗き見レポート Vol.5

ミュージカル『おとこたち』の部屋☆覗き見レポート Vol.5

2023年3月22日(水)

2014年に初演、2016年に再演され、演劇界に衝撃を与えた『おとこたち』(作・演出=岩井秀人)がミュージカルとなって新たに幕を開ける。音楽を担当するのは『世界は一人』(2019年)に続き岩井とタッグを組む前野健太だ。4人のおとこたちの60年に渡る物語がオリジナルミュージカルとしてどう立ち上がり、どんなふうに観客の前に姿を現すのか。連載最終回のVol.5では開幕した本作のレビューをお届けする。
 
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 Vol.5<劇場で見たおとこたちの世界>

 
笑っちゃうのに切なくて、可笑しいのにどこか哀しい
ミュージカル『おとこたち』はそんな作品だーー。
 
1月下旬の全体稽古初日の模様からこれまで4回に渡ってお届けしてきた【おとこたちの部屋☆覗き見レポート】。ラストとなる今回は、3月12日(日)に渋谷・PARCO劇場にて開幕した本作のレビューを綴っていきたい。尚、内容に触れる部分がある旨、あらかじめご了承いただければ幸いである。
 
舞台上にある不思議な形状のセット。まるで月明かりに照らされた夜の公園のようだ。登場したユースケ・サンタマリアは「いやあ、僕も50代になって前説やるとは思いませんでしたよ」と、台本に書かれているのかアドリブなのかわからないトークで場の空気を引き寄せ、話の流れでスっと演じる山田になる。山田は老人ホームにアルバイトに来ていると語り始めるのだが、ホーム職員との会話がどうにもかみ合わない。じつは山田はすでに82歳の老人で、記憶が混濁した入所者なのだ。
 
そこに流れるメインテーマ「おとこたち」。山田の思い出の中に地元の友人、鈴木(吉原光夫)、森田(橋本さとし)、津川(藤井隆)の3人が浮かび上がり、24歳となった彼ら4人の約60年に渡る人生が再生されていく。
 
本作は2014年と2016年に劇団ハイバイが上演した同名舞台(作・演出=岩井秀人)をミュージカル化したもの(音楽=前野健太)。その創作過程が既存のミュージカル作品と異なる手法であったことはこれまでのレポートでお伝えしてきた通りだが、劇場で観劇し、あらためて「こんなミュージカル観たことない!」と強く感じた。
 
その要因のひとつが楽曲のクオリティの高さ。近年、日本でもようやく増えてきたオリジナルミュージカルだが、多くの作品がぶち当たるのが音楽の壁だ。どうにもメロディーが耳に残らなかったり、歌詞が説明調でダサかったりと海外発のヒット作品に比べて見劣りするものもある中、本作はその壁を打ち壊した。特にタイトルナンバー「おとこたち」や鈴木と妻・花子(大原櫻子)が歌う「愛される資格」、純子(大原櫻子)の大ソロ「自転車」などの楽曲は、この作品を“ミュージカル”として成立させうる大きな力となっている。また、旧いミュージカルのお約束=不自然に歌いだすさまを逆手に取り、遊び倒す構成も楽しいし、その役割を担うのが大型ミュージカルの舞台で芯に立ってきた橋本さとしという仕掛けにはくすぐられる。この遊びは上手い俳優がやらねば意味がない。さらに楽曲制作にも貢献した佐山こうたと種石幸也による生演奏も非常に効果的だ。
 
もうひとつの要因は作品で紡がれる日常性。特に中~大劇場で上演されるミュージカルの多くが今の私たちとかけ離れた世界や時代の物語であるのに対し、ミュージカル『おとこたち』で描かれるのは4人のおとこたちが遭遇する半径5メートルのどこか笑える悲劇である。
 
ユースケ・サンタマリアは当事者より傍観者でいる時間が長い山田を自然に演じる。自分で掴み取るより、流されていく山田だからこそ、本作の語り手としてふさわしいのかもしれない。橋本さとしは妻と不倫相手の間で揺れながら、まるでススキの穂のようにふわっと生きる森田を嫌味なく構築。藤井隆が演じる子役出身の津川はチャーミングだ。じつは藤井、もうひとつ重要な役を担っており、そのとてつもない振り幅は超人的。
 
作・演出の岩井秀人はこれまで自身が手掛けた多くの作品を“私演劇”だと語る。自分や友人、知人の実体験が物語に反映されているのがその理由だが、本作も例外ではない。中でも岩井が複数の作品で登場人物に色濃く映し、時に自らも演じた“父親”を投影させたのが吉原光夫演じる鈴木である。仕事では有能、高収入を得て結婚し、順風満帆な人生を歩む社会的成功者である反面、家族、特に息子との関係は最悪。また、山田や森田が比較的自然に老いを受け容れるのに対し、鈴木は社会や家族から疎外されていく自らの状況に強い怒りと悲しみを抱く。「~したい」ではなく「~ねばならない」と生きてきた鈴木の叫びを体現する吉原の姿はリアルで哀しい。
 
大原櫻子と川上友里は4人のおとこたちにさまざまなシチュエーションで関わる女性たちを演じ分ける。大原が担う役のひとつ、森田の不倫相手・純子はハイバイ版より掘り下げられたキャラクターになっており、川上は森田の妻・良子を静かに、そしてどこか得体のしれない存在として立ち上げた。オーディションで選ばれた梅里アーツと中川大喜はしっかりした演技で作品を支える。
 
と、ここまでの流れでシリアスな作品との印象を持たれたかもしれないが、勿論それだけではない。岩井作品の特徴のひとつ「ひでぇ話を笑いに転化」していくテンションは健在で、ミュージカルには珍しく小劇場的なオモシロもあるし、ヘンテコな登場人物もたくさん出てくる。特にペイペイの女と看護師はヤバい。
 
最後に、少し私的なことを書かせてほしい。
私の父も劇中の鈴木と同じ製薬会社の営業職だった。そして鈴木と同じように社内での立場が上がるにつれ、自宅ではいつも不機嫌な空気を醸し、時に理不尽な理由で怒鳴られたりもした。今ならバブルが弾けた直後で多大なストレスを抱えていたのだろうと想像できる。が、私はつねにイライラしている父のことが好きではなかったし、自分のことで精いっぱいで彼の仕事を理解しようと思ったこともなかった。私にとって当時の父は「いるけどいない人」だったのだ。
 
日曜日のピリついた食卓、父が出張に行ってほっとした気持ち、リビングで二人になった時の気まずさ……そんなことはとっくに忘れたはずなのに、鈴木が「絶対負けない、絶対負けない!」と高層ビルで震えながら歌う姿や、必死に働いてきた自分の何がいけないのかと慟哭するさまを見て、私の知らないあの頃の父がそこにいるような気がした。
 
ミュージカル『おとこたち』は心の柔らかい部分や忘れていた感情をズブズブ刺激され、大笑いしているつもりなのに、いつの間にか涙が頬を伝わるような作品だと思う。ミュージカルにありがちな世界を変える革命も恋人たちを引き裂く戦争も起きないけれど、生きてきた中で失ったものや、忘れたふりをしてきた思いと再び出会える時間がそこにある。
 
おとこたちが過ごした60年の余韻に浸りながら、明日もこのファッキンな世界を彷徨っていきたい。今、この作品に出会えて本当に良かった。
 
 
取材・文 上村由紀子(演劇ライター)
大学の演劇科を卒業後、舞台作品や映像への出演、FMラジオDJなどを経て取材の現場へ。幼少時からの観劇本数は約4000本。演劇・ミュージカルの専門家としてTBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界)、『アカデミーナイトG』等のメディア出演や番組監修、トークイベントの構成・司会も多数。
 
 
 

 
 
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PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
ミュージカル「おとこたち」
 
公演日程:2023年3月12日(日)〜4月2日(日)
会場:PARCO劇場

脚本・演出:岩井秀人
音楽:前野健太
出演:
ユースケ・サンタマリア 藤井隆 吉原光夫 
/大原櫻子 川上友里/橋本さとし
梅里アーツ 中川大喜
演奏:pf.佐山こうた b.種石幸也
 
 
▼プロダクションTwitter更新中!
ミュージカル「おとこたち」公式Twitter@otokotachi2023

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